2026年8月15日・16日、東京ビッグサイトでコミックマーケット108(C108)が開かれます。新刊が思ったより出た年に必ず出てくるのが「これ、確定申告っているの?」という疑問です。答えは「売上」ではなく「利益(所得)」がいくらかで決まり、しかも同人には一般的な副業記事には出てこない落とし穴が3つあります——売れ残った在庫・会場の現金売上・インボイス。国税庁の一次情報をもとに、サークル参加者が実際につまずく順番で整理します。
まず結論:申告が必要になるラインは立場で変わる
同人活動で申告が必要かどうかは、頒布収入から経費を引いた「所得」で判定します。売上そのものではありません。立場別のラインは次のとおりです。
| あなたの立場 | 所得税の確定申告が必要になるライン | 根拠 |
|---|---|---|
| 会社員・パート(勤務先で年末調整済み) | 同人の所得が20万円超 | 国税庁 No.1900 |
| 学生・専業主婦(主夫)など給与がない | 同人の所得が基礎控除を超えたとき(2026年分は合計所得132万円以下なら基礎控除95万円) | 国税庁 No.1199 |
| すでに個人事業主として申告している | 金額にかかわらず本業と合算して申告 | ― |
住民税に「20万円ルール」はありません
20万円以下で所得税の確定申告が不要になっても、住民税は1円から課税対象です。この場合はお住まいの市区町村へ住民税の申告が必要になります。「20万円以下なら何もしなくていい」は誤りなので注意してください(住民税の仕組みと計算)。
20万円は「売上」ではなく「所得」
たとえば頒布収入が60万円でも、印刷費・参加費・交通費などの経費が45万円なら所得は15万円。20万円以下なので所得税の確定申告は不要です(住民税の申告は別途必要)。逆に、収入が30万円でも経費がほとんどなければ申告が必要になります。
事業所得か雑所得か——分かれ目は「帳簿」
同人活動の所得は、事業所得か業務に係る雑所得のどちらかになります。この区分は2022年(令和4年)10月の所得税基本通達35-2の改正で考え方が整理されました。
- 判定はその活動が社会通念上「事業」といえる程度で行われているかによる
- 帳簿書類の記帳・保存がない場合は、原則として業務に係る雑所得として扱われる(収入金額300万円超で、事業所得と認められる事実がある場合を除く)
つまり「趣味の延長かどうか」以前に、帳簿を付けて保存しているかどうかが実務上の分かれ目です。どちらになるかで使える制度が大きく変わります。
| 使える制度 | 事業所得 | 業務に係る雑所得 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(最大65万円) | 使える | 使えない |
| 赤字を給与などと損益通算 | できる | できない |
| 赤字の3年繰越(青色) | できる | できない |
| 家族への専従者給与 | 使える | 使えない |
| 経費の計上 | できる | できる |
青色申告特別控除は事業所得・不動産所得が対象で、65万円を受けるには複式簿記に加えて電子帳簿保存または電子申告が必要です。青色申告をするにはその年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業から2か月以内)に承認申請書を出しておく必要があります。詳しくは青色申告と白色申告の違いと個人事業主の開業ガイドを参照してください。
「赤字を作って給与と相殺」は通りません
損益通算だけを狙って事業所得として申告しても、活動実態と帳簿がなければ雑所得と判断され、否認される可能性があります。営利性・継続性・活動にかけている時間などを踏まえた総合判断であり、赤字の穴埋めを目的とした形式的な事業化は認められません。
同人ならではの経費——入るもの・入らないもの
経費になるのは「その収入を得るために直接かかった費用」と「業務上の費用」です。私生活と共通する支出(家事関連費)は、業務に必要な部分を明確に区分できる場合にその分だけ経費にできます。
経費になりやすいもの
- 印刷費・製本費(ただし後述の在庫に注意)
- サークル参加費・カタログ代
- 会場までの交通費、宅配搬入・搬出の送料
- 什器(敷布・値札・ポップ・展示スタンド)
- 通販の梱包資材・発送送料
- 表紙イラストやデザインの外注費
- 作品制作に必要な資料費・素材やフォントの購入費
- 委託販売・決済サービスの手数料
- 通信費・電気代のうち制作に使った割合(家事按分)
入らない・注意が必要なもの
- 売れ残った分の印刷費(在庫として翌年へ繰越)
- 制作と関係のない打ち上げ・交流だけの飲食費
- 普段も着られる衣類(区分できない家事費)
- 10万円以上の液晶タブレットやパソコン(一括では落とせず減価償却。青色なら30万円未満は特例あり)
- 釣銭として用意した現金(経費ではなく資金の移動)
- 家族との旅行を兼ねた遠征の私的部分
高額な機材の扱いは減価償却の基礎と少額減価償却資産の特例、判断に迷う支出は経費になるかグレーなもの10選にまとめています。
最大の落とし穴:売れ残りは経費にならない
同人サークルが最もつまずくのがここです。その年の経費にできるのは「頒布した分」の印刷費だけで、売れ残った在庫の分は経費になりません。売上原価は次の式で計算します。
売上原価の計算式
売上原価 = 期首の在庫 + その年の印刷費など - 期末(12月31日)の在庫
数字を入れてみます。新刊を1,000部刷り、夏コミで600部を頒布したケースです。
1,000部印刷・600部頒布のとき
| 印刷費(1,000部) | 20万円(1部あたり200円) |
| 頒布価格700円 × 600部 | 収入 42万円 |
| 売上原価(200円 × 600部) | 12万円 |
| 期末在庫(200円 × 400部) | 8万円 ← 翌年へ繰越(今年の経費にならない) |
| 参加費・交通費・搬入費など | 5万円 |
| 所得 | 42万円 - 12万円 - 5万円 = 25万円 |
印刷費20万円を全額引けば「42 - 20 - 5 = 17万円」で20万円以下、申告不要——と思いがちですが、正しくは25万円で確定申告が必要になります。「手元の現金は増えていないのに税金がかかる」と感じる原因の多くがこれです。残った400部は翌年以降に頒布したとき、その分が経費になります。
やるべきことは1つだけ
12月31日時点で手元に残っている部数を数えて記録しておくことです。年をまたぐと数えられません。書名・残部数・1部あたりの原価をメモしておけば、申告時の計算は数分で終わります。ダウンロード版のみの頒布なら在庫が存在しないため、この計算は不要です。
会場の現金売上をどう記録するか
イベント当日の売上は、通帳にもクレジットカードの明細にも残りません。記録がなければ帳簿が作れず、雑所得として扱われる原因にもなります。難しいことは不要で、次の3つを当日メモするだけで十分です。
- 開始時の部数と終了時の部数(差が頒布数。無料配布や見本誌は別に控える)
- 頒布価格と、当日の売上金額の合計(釣銭の準備金は差し引いて記録する)
- その日かかった費用(参加費・交通費・宅配搬入の控えは写真で保存)
領収書を求められることもあります。金銭の受取書(領収書)は記載金額5万円未満なら印紙税は非課税です(印紙税法別表第一 第17号文書)。同人誌の頒布で5万円以上の受取書を書く場面はまれですが、まとめ買いの際は頭に入れておくとよいでしょう。記帳のやり方は勘定科目と仕訳の基礎が参考になります。
委託販売・通販・支援サイトの売上はいつ・いくらで計上する?
書店委託や通販、支援サイトを使っている場合、次の2点を間違えると売上も経費もずれます。
1. 手数料が引かれる前の「総額」が売上
入金額だけを売上として記録すると、売上も経費も過少になります。原則は頒布価格の総額を売上に計上し、差し引かれた委託手数料・決済手数料を経費に計上する形です。同人誌委託書店(とらのあな、メロンブックスなど)やダウンロード販売サイトの明細は、必ず手数料の内訳がわかる形で保存しておきます。
2. 計上する日は「入金日」ではなく「販売が確定した日」
12月に売れて1月に入金される分は、原則として売れた年の売上になります(発生主義)。年末年始をまたぐ委託分やダウンロード販売分は、入金明細だけを見ていると1年ずれるので注意してください。
創作支援サービス(pixivFANBOXなど)で受け取る支援金も、名目が「支援」であっても対価性のある収入として課税対象です。これらのサービスは源泉徴収を行わないため支払調書も発行されません。自分で集計する必要があります。ネット販売全般の考え方はポイ活とフリマの税金、創作・発信で稼ぐ場合の経費はインフルエンサー副業の経費もあわせてどうぞ。
インボイス登録は必要か——多くのサークルは「不要」
結論から言うと、一般の読者に頒布するだけのサークルは、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録は原則として不要です。理由は次の2つです。
- 消費税は、基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら納税義務が免除される(前年1月〜6月の課税売上高が1,000万円を超える場合などを除く)
- インボイスが必要なのは買い手が仕入税額控除を受けるため。買い手が一般の読者であれば、そもそもインボイスを必要としない
登録すると免税事業者に戻れません
適格請求書発行事業者の登録を受けると、課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されなくなります。「とりあえず登録」は消費税の納税と申告の手間を自ら背負うことになるため、必要性を確認してから判断してください。
登録を検討する余地があるのは、次のように取引相手が課税事業者である場合です。
| 取引の形 | 相手 | インボイスの必要性 |
|---|---|---|
| イベント会場での頒布・個人向け通販 | 一般の読者 | 基本的に不要 |
| 同人誌の書店委託 | 委託書店(課税事業者) | 相手の取引条件を確認 |
| 企業からの原稿料・グッズのイラスト受注 | 企業(課税事業者) | 求められることがある |
なお、免税事業者から仕入れた場合でも買い手は一定割合を控除できる経過措置があり、控除できる割合は2026年10月1日から80%が50%に下がります(2029年9月30日まで)。この時期に取引先から登録の有無を確認される可能性はあります。ただし、登録しないことだけを理由に一方的な取引停止や報酬の引き下げを行うことは、独占禁止法や下請法上問題となるおそれがあると公正取引委員会が示しています。制度全体はインボイス制度と免税事業者、登録済みの人向けの負担軽減策はインボイス2割特例の終了で解説しています。
学生・扶養に入っている人が見落としがちな点
親の扶養に入っている学生が同人活動で収入を得る場合、注意すべきなのは自分の税金より親の税金です。
- 扶養親族の判定は合計所得金額58万円以下(2025年分から。それ以前は48万円)。アルバイトの給与所得と同人の所得は合算して判定されます
- 19歳以上23歳未満の大学生年代には、58万円を超えても段階的に控除が受けられる特定親族特別控除があります(学生バイトと親の扶養)
- 勤労学生控除(27万円)は合計所得金額85万円以下(2025年分から。それ以前は75万円)などが要件です。判定には同人活動の所得も含まれます
会社員が副業として同人活動をしている場合の住民税の扱いや勤務先への影響は、副業の確定申告で詳しく整理しています。
二次創作と税金は別の問題
誤解されやすい点を1つ。作品の権利に関するルール(原作者・出版社のガイドラインの遵守など)は著作権の問題であり、税金の話とは別の軸です。税務上は、収入がどのような活動から生じたかにかかわらず、所得がある以上は所得税・住民税の対象になります。「グレーな活動だから申告できない」という判断は、無申告加算税や延滞税というまったく別のリスクを招きます。申告漏れに気づいた場合の対処は無申告からの復帰、調査の実態は税務調査のリアルを参照してください。
今日やること
- イベント当日に「開始部数・終了部数・頒布価格」をスマホのメモに残す(後からは作れない記録です)
- 印刷費・サークル参加費・交通費・搬入費の領収書を1か所にまとめる(写真フォルダでも可)
- 12月31日に残った在庫部数を数えて書き留める(売上原価の計算に必須)
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
赤字だった年は申告しなくていいですか?
事業所得として申告できる場合は、赤字を給与所得などと損益通算できるため、申告したほうが有利になることがあります。青色申告なら赤字を3年間繰り越せます。一方、業務に係る雑所得の赤字は損益通算も繰越もできません。また所得税の申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要になることがあります。
頒布収入が20万円以下なら本当に何もしなくていいですか?
いいえ。20万円ルールは所得税の確定申告に限った話で、住民税には適用されないため市区町村への申告が必要です。また、医療費控除やふるさと納税などで確定申告をする場合は、20万円以下の所得もすべて含めて申告する必要があります。「確定申告をするなら全部書く」が原則です。
1,000部刷った印刷費は、その年に全額経費にできますか?
できません。経費になるのは頒布した部数に対応する分だけで、12月31日時点で売れ残っている在庫の分は棚卸資産として翌年以降に繰り越されます。売上原価は「期首在庫+その年の印刷費-期末在庫」で計算します。年末に残部数を数えておくことが必要です。
同人サークルもインボイス登録は必要ですか?
一般の読者に頒布するだけであれば原則として不要です。買い手が消費者ならインボイスを必要としないためです。検討が必要になるのは書店委託や企業からの受注など、取引相手が課税事業者である場合です。登録すると課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税義務が生じ、免税事業者には戻れない点に注意してください。
- 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係(35-2)
- 国税庁 No.2210 必要経費の知識(売上原価・家事関連費)
- 国税庁 No.2070 青色申告制度/No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 No.1199 基礎控除/No.1180 扶養控除/No.1175 勤労学生控除
- 国税庁 No.6501 納税義務の免除(基準期間の課税売上高1,000万円)
- 国税庁 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置(80%・50%の適用期間)
- 国税庁 No.7105 金銭又は有価証券の受取書(5万円未満は非課税)
- 公正取引委員会 インボイス制度後の免税事業者との取引に係る独占禁止法等の考え方
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断は税務署や税理士にご確認ください。開催日程や会場のルールは主催者の最新の発表をご確認ください。制度は改正される可能性があります。







